基礎講座第6回
「ジャンルと分野」
シナリオ実践塾クラム
次回講座はこちらです。
【第2章】第7回

課題6 「ジャンルと分野」

 これまでの課題回答の最終整理を行って下さい。

 各課題を「はしら(項目)」にして、
誰に見せても恥ずかしくない客観性を持った視点で書き表して下さい。

また、同じタイトルで作品が異なる場合や、
同じ原作を元にした媒体が違う作品である場合もあります。

貴方がご覧になった作品がどれであるのかを明らかにするために
映画であれば制作年や制作国、
テレビドラマであれば放送年や放送回数など、
ネット検索で調べる努力をして、知り得た情報も書き加えてください。


 課題回答の締切は次の金曜日です。
 ワードではなく、テキスト文書(プログラム/アクセサリ/メモ帳)の添付でご提出下さい。

 回答をお寄せくださった方へのみ、
 S(大変良い)A(良い)B(普通)C(努力を要する)の評価を行い、
 翌々日の日曜日にメールを差し上げます。



第6講座『ジャンルと分野』
ジャンル
 ジャンルはフランス語で、英語では「カテゴリー」です。日本語では「属性、分類、種類、様式」と訳され、通常ドラマにおけるジャンルとは、先の講座で取り上げた「種類」と同じです。まず全体像を掴んで頂くために突き放した提示を前回致しました。この講座で少し詳しく触れます。

分野
 この講座で言う分野とは大きく捉えて媒体のことです。暮らしの中で日々接しているテレビ、映画、ラジオ、出版物などのことです。時代は急速に変化し今後も様々な分野(媒体)でドラマは試行錯誤を重ねて生み出されて行くでしょう。けれどドラマそのものは決して廃れることはないでしょう。

違和感
 ジャンル別は便宜的に分けられたものです。それは受け手の立場に立った視点です。これまでの講座を理解習得している受講生には、既に内外という見方が培われている筈です。この場合も「受け手」「表面」という捉え方ではなく、「送り手」と「内面」という見方でもう一度このジャンル別を辿ってみて下さい。すると何かモヤモヤした違和感を感じる筈です。その違和感を感じ、その正体を明らかにすることが出来たら、「創造する」というこれまで6回の講座は完全にクリアしたことになります。そうでなければ、もう一度講座をやり直して下さい。

トーン
 違和感の正体を明らかにする前にトーンについて触れます。トーンとは音や色の調子、音調や色合いのことですが、ドラマはその種類(ジャンル)ごとにそれを有しています。そのトーンは大事にしなければなりません。それを知らずに様々持ちこんで語れば、観客・視聴者は混乱を来します。勿論喜劇であった筈がサスペンスやホラーになったりする場合もあります。けれどそれは観客・視聴者の期待を裏切る手法であって、その作品の持つ雰囲気(トーン)を語るものではありません。トーンは様々なドラマを観ることで、ご自分で感じ取って学ばねばなりませんが、作品を観る時に冷静怜悧な眼差しで見つめて分析しないと見逃してしまい、トーンを感じることも学び取ることも出来ません。

欲張る
 違和感の正体の一つはアニメというジャンルが紛れ込んでいることで考察し明らかにすることが出来ます。アニメにもラブストーリーはあるし、青春ドラマだってミステリーだって時代劇にだってある、他の全てのジャンルがアニメで描けるじゃないか、という見方です。そんな視点で視界視野を広げてみると、違和感の正体が隠れる扉の入口に立つことが出来ます。SFサスペンス青春ラブストーリーファンタジー時代劇コメディアニメなんて作品も生み出そうと思えば創り出せるでしょう。でもそこにはその作品のトーンがありません。主題と同じでトーンが曖昧で欲張った作品は視聴者・観客の混乱を招いて失敗します。

玩具箱
 赤ん坊がおもちゃ箱の玩具を全部床にばら撒いて勝手に遊ぶのは自由です。でもその一つ一つには買い与えた親の思いがある筈です。一山幾らで買い与えた玩具たちではない筈です。そういう意味でトーンは主題と同じく作者の計算から生み出されます。

思い
 最後の駄目押しでジャンル別に突出している「思い」を表してみます。メロドラマやラブストーリーには「切ない」という思いがあるでしょう。サスペンスやミステリーには「ハラハラドキドキ」する思い、喜劇やコメディには「可笑しさ」、或いはある種の「優越感」を感じるのかも知れません。


課題補足『総括』
立場
 一言表現で作品を表そうとする場合、作品を生み出した作者の視点で、作品の中に込められた核(主題/テーマ)を表す場合と、観客・視聴者の立場で、完成された作品の面白さや、ご自分なりの見方などの核を言い表す違いがあります。貴方はどちらの立場をお望みでしょうか。

3つの視点
 一言表現には大事な要素が3つあります。1つ目はその表現で具体的なその作品のタイトルが浮かぶかどうか。2つ目に観ていない人にもその作品の内容・イメージが伝わるかどうか。そして3つ目に観ていない人でもその作品を観たいと思わせられるかどうかです。そしてそれらの視点・視野を養うことにより、ご自分が生み出す作品も的確にアピール出来るようになっていくでしょう。

プライベート・ライアン
 スピルバーグがこの作品に対する思いを語っています。それは「戦争は地獄だ」でした。これまでの課題全てをクリアする一言表現だと思います。

戦争は地獄
 「戦争は地獄だ」はなぜ先生が挙げた上の3つの項目をクリアしているのでしょうか。「戦争は地獄だ」で思い出す映画は複数ありますし、観ていない人に伝わるイメージも曖昧ですし、これだけで「観てみたい」と思うかどうか。先ほどの添付ファイルを読む限り、むしろ「テーマ」に近い気がしてならないのです。これが納得できれば、これまでの講座も理解できる気がします。お忙しいとは存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
(塾生020620)

ラーメン屋
 ラーメンにも味噌、醤油、塩とかありますよね。素材や麺に拘り、様々な出汁から作り上げたラーメンを、単純に店ではお品書きでそう表し、客はそれで注文をします。でも、目に見えない苦労があって、初めて生み出された味があります。上っ面の味しか判断出来ず、その奥に隠された味を知ろうともしない客に、店主は丁寧に豚骨を使ったとか、昆布を加えたなんて教えもしないし、そんな客の味覚を見破って、店主は相手にもしないでしょう。そしてラーメン屋を開業しようとしている者が、それで本当に美味いラーメンを自分で創り、提供出来るのか甚だ疑問ですね。単純に味噌だ、醤油だ、塩だ、おんなじだ、と言っているのは、タダの客で批評家です。言葉が持つイメージについても考えてみて下さい。送り手としては、ご自身がどこまでその言葉にご自分の思いを託せるのか、受け手としては言葉の理解、引き出しの数などに関わる問題ではありますが。
 上記のご質問で、先の項目が誤った理解を与える曖昧な文章であったことに気付きました。お詫びして加筆します。「戦争は地獄だ」が、この作品を的確に表現する一言表現であるとは塾長も思いませんが「戦争は悲惨だ」よりはこの作品を表す一言表現になると思います。また第1章「創造する」の課題で学び、養って頂きたかった知識、視点や視野などの集大成として取り上げました。塾長の場合、この作品を一言で表現すれば「一人の新兵の為に八人の精鋭が命を懸けて救出に向かう話」或いは「四人の息子を兵隊に送り出した母親の為に生き残っているであろう末っ子を救出に向かう兵士たちの話」などと表現します。ちなみに答えは1つではありませんし、正解を探るのがこの講座の目的でもありません。

スーパーマン
 スーパーマンを演じている役者に「空を飛べ」とせがむのは酷です。現実にはそんな無茶は言い出さないでしょうが、貴方はそんな受け手の視点を引きずってはいないでしょうか。そんな視聴者と同じ感覚で作品を捉えてはいないでしょうか。それでは創造は出来ません。

受講生感想
  課題6回提出後の理解、感想
・感動した、琴線に触れたということは、作者の主題(テーマ)が伝わってきたということ。
・素材を多様性のある着眼で調理することにより、面白い作品が生まれる。
・一言表現に悩む作品は深く考えさせられたりいわゆる「重め」の作品が多く、簡単な作品は痛快で楽しめる作品が多い。
・対立、葛藤はどの作品にも必ず存在するもので、人を惹きつけるドラマには特に様々な葛藤がパズルのように組み合わさっている。ただ、必ずしも主人公が巻き込まれなければいけないということではない。
・着眼と似たところがあるが、ドラマの種類、形式は決して一つに限定されるものではなく、それこそ調味料のようにバランスを考えミックスさせて使うものである。但しそのバランスを間違えると料理をダメにすることもある。→トーンを創る
(塾生020117)
 頭を整理すれば、テーマやストーリーは一言で表現できるものだということが分かりました。ただ、テーマ以外でも心に訴えてくるシーンが沢山あって、ドラマを作るということは、テーマをしっかりと伝えることだけではなく、いかにふくらみをもたせるかも重要なことではないかと思いました。 私の場合、一言表現がただの粗筋になりがちなのは、”客観的”という言葉を誤解していたからかもしれません。”無味乾燥”ではなくて、”他の人にも分かるように”、ということなのですね。自分なりの切り口を探していると、結局、自分の中にあるものが出てくるような気がします。自分にとって意味の有るテーマや気持ちを、強く感じる、もしくは、そういうテーマを持ったものに感動しやすい。どちらにしても、自分にとって意味のあるものが、はっきりかたちになってきたので、創る側にまわった時にも、そういったテーマをあつかってみることが自分らしいものを書くことにつながりそうに思います。
(塾生020701)
 「一言表現」に関しては、他の方のを読んでいてハッとしました。同じ映画でこうも違うのか……と。視点の違いですね。ということは、その映画をベースに創作をしたとしても、お互いに違うものが出来るはずで……。どう観たかというのは、どう創るかに繋がっていくのですね。今更ながら、先生の仰りたかったことがはっきり見えてきました。これが第一章の根本のはずですが……。
(塾生020917)

SとA
 成長の後が著しく、「S」評価にさせて頂こうかとも考えました。けれど、結局巧く話をまとめているだけで、ご自分なりの切り口・視点が見出せなかったのではないでしょうか。「S」と「A」の違いはそんな判断で決めさせて頂いています。今回の課題は総整理になりますので、何かお気付きのことがあれば労を惜しまず回答をご訂正下さい。(受講生への回答)

作家の思い
 これまでの講座で「素材」「着眼」「対立」「葛藤」「種類」「形式」「ジャンル」「分野」と進めて皆さんこなして来ましたが、結局は作家の「思い」そしてその思いを表現する「主題」に帰結し、それが創作・創造の上での根っ子になることがお分かり頂けたでしょうか。以上が「創造する」講座の狙いでした。それさえご理解頂ければ、今後どんなジャンルのドラマでも生み出せるでしょう。

創造と想像
 基礎講座は全20回で3つのブロックに分かれています。その1つの章「創造する」は今回の講座で全て終了です。「創造する」は、次からの講座「構築する」の章に繋げるために大変大事な講座でした。「創造」という言葉の裏には「想像」という言葉が隠されています。お気付きでしたか?(笑)

困難
 これまでの課題の真意は、貴方が「客観」で物事を表現することが出来るかどうか、そしてその「視点」を習得し、今後養い続けることが出来るかどうかを見極めることでした。今回の課題は、その最終確認です。今回の課題提出でその訓練が足りないと判断させていただいた受講生は、これより先に進むのは困難です。主観で判断していては、いずれご自分の物語を構築しても、相手には伝わらず通じず、まして「共感」や「感動」を与えることは困難です。そして、今この場で受ける困難ではなく、貴方が、貴方の作品を生み出す時に、待ち受けている困難こそが、貴方の本来の相手です。

締切
 受講生が増えております。遅れた課題提出に対応するため、こちらの配信が遅れる事態も生じております。それにプロになれば締切は絶対です。今からその訓練を行って頂くために、今後金曜日の深夜12時を回って届いた課題提出については、次の週に回させて頂きます。

愛知
 この「創造する」講座の最後の締めくくりとして「ソクラテス問答」をご紹介します。有名なギリシャの哲学者であるソクラテスは、自らは「知者」ではなく「知を愛求する者」philosophiaであると称し、無知の装いの元に徳の正しい概念に到達(定義の発見)しようとしました。その方法は相手が自分で真理を生み出すのを助けるにすぎぬものとして、「産婆術」とも呼ばれています。(講座の未熟さを補う言い訳です。笑)

ご注意下さい
 この講座が第1章の締め括りとなります。これまでの課題に未回答があっても、次の第2章第7講座へは進めますが、なるべく締切を守る習慣を、今の内から身につけるようになさって下さい。

補足講座
 希望者には、これまでの受講生回答をご紹介します。基礎講座案内/受講生選出作品が入口です。一般公開のページに入口を設けているのは、受講生がどのような作品を選んでいるのか、それによりシナリオ創作を目指す方々の傾向や趣向を探り、選んだ作品のみをご紹介するのが狙いです。受講生bノはったリンク先が受講生回答になります。閲覧希望は事務局までお問い合わせください。なお、受講生回答は、クラム関係者の中でも、希望者のみの公開です。回答をお寄せくださる受講生の皆様、育成の趣旨をご理解の上、回答紹介のご了承をよろしくお願い申し上げます。卒塾生で公開を希望されない方は、その旨事務局までご一報くだされば幸いです。リンクを即日解除いたします。


Q&A

シリアスドラマ
<種類>の中に、「シリアスドラマ」というものはないのでしょうか?
 難しいご質問です。当然そのように区分け出来る種類があって良いでしょうし、「実録もの」などがそれに当たります。ただドラマはドラマであって、ドキュメンタリーではありません。「シリアス」を「厳粛、真面目、重大、切実」と訳した場合と、「本格的な」と訳す場合でもお応えは違いますが、フィクションの世界で、ドラマは「らしさ」を追求するものですから、「シリアスドラマ」というのは、根っ子の部分に嘘があるような印象が拭えません。
(2002.04.14)

ラジオドラマ/オーデイオドラマ
 「ラジオドラマ」と「オーデイオドラマ」ってどう違うんでしょうか?
 通常は同じ意味で扱われていますね。「オーディオドラマ(ラジオドラマ)」いう形でしょうか。10数年前まで「ラジオドラマ」という言い方をしていましたし、いまだにその呼び方に拘る方もいらっしゃいます。いつ頃から「オーディオドラマ」の呼び名が定着したかは判然としませんが、恐らく、推測ですが、カセットテープで「音声だけで聴覚に訴えるドラマ」が販売されるようになってからだと思います。それもラジオで放送されたモノの焼き直しではなく、小説の朗読などオリジナルで製作されたモノですね。それは「ラジオドラマ」とは呼べないわけで、社会や文化、環境の変化に合わせて生まれた言葉、つまり媒体の違いを表しているのだと思います。オーディオドラマと名前を変えた今、ラジオドラマは今後も様々な媒体を得て、発展して行くだろうと期待しています。
(2001・11・19)


クラム事務局 zimu@kuram.tv